【P195】
 大和上空に後方から迫る一機を、涼月高角砲八門は一斉射撃で撃とうと身構えた。
 九四式高射装置の全力発揮である。
 距離は三〇〇〇メートル、高度は一〇〇〇メートル。
 射撃指揮所指揮官牛島兵曹長は、ブザーを押す。

【P197】
 八個の弾丸は、大和の直上に迫って、ちょうど急降下爆撃にはいろうとする敵機に向かって飛んで行った。
 閃光とともに、黒煙がパッとはじけて、翼をキラキラ輝かす敵機の周りを包んだ。
 命中だ!
 敵機は、大和の上空で黒い尾を引いた。
 そのまま大和艦首上空を通り過ぎると、涼月の右前方に近づいて来た。
 右舷機銃群の曵痕弾の赤い火は、何百となく敵機に吸いこまれて行く。
 閃光が、また機体の表面に数回はじけた。
 今度は機銃弾の命中である。
 黒煙が真っすぐ尾端から尾を曳き、次第にその太さが増した。
 さすがに力つきたのか、艦の四〇〇〜五〇〇メートル手前にくると、グッと機首を下げ、無音のグライダーのように、右前方の海面の一点を目指した。
 速力は落ちた。
 風防は開いている。
 搭乗員の顔色は青い。
 上体は動かず、頭の位置もくずれていない。
 搭乗員には命中していないのだ。
 敵機は、そのままズバッと海面に突っこみ、白い飛沫の幕が左右に別れて飛び上がった。
 機体は、風防の根本まで海中につかっている。
 その後、わずかの間海面に動かずに浮いていたが、すぐに沈みはじめ、最後に尾翼が静かに水面から消えた。