【P214】
 そのころ、基地では、毎晩幽霊が出るといううわさでもちきりだった。
 大入道が出たとか、大猿が出たとかいうのだ。
 だが、うわさだけでだれひとりとして実際に見たものはない。
 夜になってテント張りの仮住居の宿舎にはいると、仲間たちは幽霊が出るのを期待した。
 「今夜はひとつお目にかかりたいもんだ」
 「幽霊さんといっばいやってみたいな」
 こんな冗談をいっているものもいる。

【P273】
 基地訓練中に、奥宮正武少佐が第二航空戦隊司令官に随行して基地視察にこられた。
 奥宮少佐は、霞ヶ浦航空隊時代の私の分隊長で、ひさしぶりにその温容に接することができた。
 視察を知った私は、矢もたてもたまらず指揮所にとびこんで、まるでどなるようにいった。
 「奥宮航空参謀、森は元気で働いております」
 「おお森君か、元気でいいね。こんど二航戦の航空参謀になったから、いっしょにご奉公しようよ」
 わたしは、とてもうれしかった。