【P17】
 その姿は、ジュラルミンの桜花機搭乗口を開け、そこから降りて消えていった。
 (中略)
 「投下準備よし!」
 その宮下中尉の現実の声が、伝声管を通じて、張りつめた調子で聞こえてきた。

【P25】
 また、私たち新兵にも感じられた変化の現われのもうひとつに、丙種予科練と称する搭乗員の大量募集があった。
 それは私たち兵科ばかりでなく、徴集兵全般にわたっても目がつけられ、その中から希望者を募ったということで、これも、この年から大量にはじめられたのである。

【P32】
 やがて日米開戦、長びく戦いの間、3年あまりの兵隊生活で鍛えられ、善行章のついた一等兵(兵長)になったあと、この高井四整は、予備学生として海軍士官への道を歩む(歩まされる)ことになる。

【P107】
 だが、このとき、黒い魔物のように、敵の巡洋艦が1隻接近してきた。
 そして、猪俣たちが泳いでいる海面全体に向かって、頭上から無差別に銃撃をあびせてきた。
 (中略)
 敵の巡洋艦は、この攻撃で満足したのであろう、撃沈の喜びを、見せつけるようにして引き上げていった。

【P213】
 4年と6ヵ月の歳月と、莫大な巨費をついやして完工したばかりの新空母――当時、世界最大と目された空母「信濃」は、ついに、一度も戦うことなく、しかも、50基もの「桜花」もろとも、海底の藻屑となるべく消えさった。
 この「信濃」の沈没により、「桜花」特攻作戦は、大幅に遅れることになったのである。

【P287】
 こんどは、左エンジンが、異状音を発しだした。
 チラッチラッと、火を吹いている。
 機銃弾に射ちぬかれたらしい。
 だが、この火は自動消火装置がはたらいて、すぐに消えた――傷は、幸運にも軽いようである。

【P292】
 「救命ボートをとってきます」
 (中略)
 みな心配して待っていると、まもなく、救命ボートを引きずって山崎は出てきた。
 大胆な男だ。
 すぐに、翼の上にひろげて、みんなでその救命ボートをふくらませにかかった。
 (中略)
 今度は救急用の食糧を持ち出しにいったのである。
 (中略)
 さっそく缶を開けて、ウイスキー入りのチョコレートやカンパン、マッチ、タバコなどを取り出す。