【P120】
 陸戦隊がセレベス島南東のケンダリーを占領したのは、昭和17年1月24日である。
 爾来、「ケンダリーの幽霊は」一躍有名になり、私たちにも伝わっていた。
 (中略)
 私たちは名にしおう幽霊屋敷に乗り込んだ。
 総紫檀造りで天井が高く、床は低い。
 横2間、縦1間ほどの窓が数個あり、枠は取り付けてない。
 まるで雨天体操場である。
 建物の南側は密林。
 北側は今来た道で、飛行場へ続いている。
 (中略)
 夕刻、母艦から整備員が到着していっそう賑やかになった。
 巡検のときには、蚊帳の中で眠ったふりをしていたが、巡検が通過すると、幽霊談議に花を咲かせた。
 それもシャベリ疲れて、12時を過ぎたころには、誰もかれも眠り込んでしまった。
 「ううッ、ううッ」
 どのくらいたってからだったか、唸り声にハッとなった。
 南側の隅が騒々しい。
 「しっかりしろ、何もおらんじゃないか」
 唸った男を囲んで励ましている。
 起きて見に行くほどのこともない。
 翌朝、唸ったあたりの蚊帳が濡れていたが、なぜだったろうか。
 雨が降った様子もなかったが。